駆け引き

   
  正直、この難産にこんなに手こずるとは思ってもみませんでた・・・。

 胎児の体制は、およそ90度傾いている程度で、用手にて整復できると簡単に考えていたのです。

 ところが、母体の怒責(子宮の収縮)が微弱で胎児が産道に押されてこないため、深い場所での胎児整復を余儀なくされました。

 胎児の後頭部にはとても産科ワイヤーは掛けられそうもありません。 止む無く下顎に紐を掛け、少しづつ産道に乗せようとしました。 

しかし、前肢も一緒に来てしまうため、上手く乗りません、前肢を折り曲げて後方に押しながら頭部を引き出す、そんな駆け引きを一時間もの間、繰り返しましたが、なんとか整復した後、下した決断は、「このまま引っ張ったら胎児が生きている保証はないだろう」ということでした。