今日はいい日


 比較的暖かい日が続いた11月でしたが、今日は一日中吹雪で雪もかなり積もりました。冬を迎える心準備ができていないと多少げんなりします。

 でも「今日はいい日」でした。それはなぜかと言うと、投稿していた論文の掲載通知(アクセプト)が届いたからです。

 長く続く道のりの、ハードルをやっとひとつ超えただけなのかも知れませんが、正直言ってうれしいですし、自信がついた気にもなります。

 しかし、大切なのは、きちんとした方向で仕事が進められてるかと己を戒めることができるかということとかも知れません。

 道はまだ半ばです。

受精卵の凍結方法と移植部位

 先日、十勝育成牧場場長の山科秀也先生の講演に参加する機会に恵まれました。

実は、わざわざ東北町にいらしてくださり、弊社牧場にもお寄りいただきました。

講演の中では、胚のランクや凍結方法の違いで適切な移植部位があることを、豊富な移植データで示されており、フィールドにおける受精卵移植の受胎率向上を目指した貴重な実績だと思いました。

早速、日々の仕事の参考にさせていただきたいと思います。

何年も積み上げてこられた業績を、わずか2時の中に凝縮してご講演いただきました。そして講演のあとの懇親会で、いろいろなお話を伺ったことが大きな収穫でした。

人との出会いとはなんとすばらしいことなのでしょう。

山科先生、ありがとうございました。

「夜明けの”おにぎり”」


 「夜明けの珈琲」  ハードボイルドな小説の一節か、あるいは、映画のワンシーンなのか解らないのですが、哀愁を帯びた男に似合いなフレーズだと学生時代から勝手に解釈していました。

 深夜3時半に和牛難産の連絡。K牧場までは三沢の自宅から1時間ほど。
「2時間悪戦苦闘してみたけど出せない、もう子牛はだめかも・・・」Kさんの声は疲労困憊していました。「Kさんがそういうくらいならきっとだめだろうな」と思いながら漆黒の闇にに車を走らせました。

牛舎に到着し「おはようございます」と私が言うと、Kさんと奥さんは「こんな時間にすみませんと」と頭を下げ下げ。母牛は2本のロープがかけられた前足が突き出たまま呆然と立ち尽くしていました。

さてどんな按配かな?ロープを外し、お湯で洗った後、産道に手を入れて状況を確認しました。下額に細めのロープがかかっており、90度捻じれた状態で頭部が触診できました(しかしかなり奥)。前足と頭部を一緒に産道に入れようと悪戦苦闘したのが解ります。農家としてはなかなかの技術力。
しかし産道が開く条件が整っていないため一緒に入れるのは物理的に無理だったのかもしれません。

まずは両前足を子宮の中へ押し込み、代わりに下額をつかみ産道に引っ張り込みました。

うまいことに頭部が捻じれを矯正しながら産道に入ってきました。後は両前肢を確保するのはたやすいことです。酪農協に勤務する息子さんも助っ人に参加し、総勢4人で引っ張り娩出したら、なんと子牛が生きているでわありませんか!!。

てっきりだめかと思っていましたし、介助中もピクリともしなかったのに・・・。子牛の呼吸中枢を刺激するために後頭部に水を掛けたら元気に頭をもたげました。Kさん夫妻の顔が満面の笑みに溢れ、私の疲労も一気に吹き飛びました。

「家で休んでいって」とKさんの奥様が声を掛けてくれましたが、「少し事務所で寝ておかなければ」と思い、帰ることにしました(Kさんももう搾乳する時間だろうし)。そして帰り際に奥様が「ありがとうございました」と暖かいおにぎりを2つ手渡してくれました。

うっすらと東の空が白んできた中を帰路につきました。実はその後、急患用携帯に子宮脱の連絡・・・。へろへろな心身に鞭を打ち次のエマージェンシーに向かう車中でKさんの奥さんからいただいたおにぎりをほおばりました。なんとおいしいおにぎりなんだろう。低下しかかっていた血糖値が上昇に転じ、パワーが漲りました。

無事、子宮脱も整復、処置し、見上げた空の風景です。


「夜明けの珈琲」ならぬ「夜明けの”おにぎり”」がやけに胸に沁みた出来事でした。

そよかぜ


 先日、新聞をぱらぱらめくっていた時にふと目に入った言葉、~そよかぜ~。酷暑といわれるこの夏のさなかですが、言葉をかみしめて見ると一瞬の爽やかさを味わえるものです。

18時間培養後


 翌日の午前10時、18時間培養後の受精卵です。3卵とも発育がみられブラストになっていました。旺盛な発育で、これなら新鮮胚と同様な受胎成績が期待できるかもしれません。しかし、受胎に関してはレシピエント側のコンディションも重要な要素だと思います。栄養状態、子宮や卵巣の状態が正常であることは必須条件だと思います。受精卵移植で受胎率を高く維持するための飼養管理技術を確立していくことが当面の大きな目標です。

凍結受精卵の融解


 昨今の凍結受精卵は、ダイレクト法が主流となっているのではないでしょうか。融解作業が人工授精並みに簡便だというところが普及に一躍買っていることは確かだと思います、また、受胎率も従来のステップワイズ法とさほど変わらないという報告もあり、ダイレクト卵のニーズが高いのも納得です。私はダイレクト凍結をした受精卵を、移植前に融解し、胚の品質を確認し、さらにCo2インキュベーターで培養することによる受胎率の動向を観察しています。写真は凍結胚を融解し、耐凍剤からPBSに移した直後です。

早期流産


 これは胎齢38日で流産してしまった胎児です。たまたま牛房内で発見しました。
せっかく受胎しても妊娠が維持できず流産してしまうのはがっかりです。
なぜ流産してしまったのだろう?臨床現場で遭遇する早期流産では不明な点がまだまだ多くあります。
母体側の要因、胎児側の要因、細菌やウイルスの感染などが流産の要因として考えられますが更なる研究が望まれます。
逆に、受胎が成立することや胎児が成長して分娩を迎えるという生体の緻密なメカニズムは、驚くべき生命の神秘なのかもしれません。

公共牧野での受精卵移植






 青森県にはたくさんの公共の放牧場があります。緑の広大な牧草地でゆったりと草を食む風景は、のどかで心が癒されます。もちろん牛にとっても最良の生活環境でしょう。






 六ヶ所村にある酪農振興センターでは、今年7月から我々民間の技術者が、農家の依頼を受けて受精卵移植を行うことが可能となりました。これまでも生産者サイドから受精卵移植実施への強い要望はあったものの、さまざまな理由から実現に至らなかったという経緯を聞いていました。いずれにしても今回の移植解禁は生産者にとっては朗報です。市場価値の高い和牛受精卵を供給、受胎させていきたいと思います。



 身近な地域にありながら、ほとんど来る機会が無かった酪農振興センター。訪れてみるとなんとも風光明媚な放牧場です。



生まれたてのほやほや!





 分娩時における胎児の失位の発生頻度は、周産期の母体のコンディションと多少なりとも関係があるのではないかと日々考えています。分娩前後の母体の飼養管理には細心の注意を払うことが大事だと思います。






 しかし難産となった場合、胎児の生存性や母体の衰弱を最小限に抑える意味でも的確な診断、的確な整復、そして娩出させるタイミングが重要となるのではないでしょうか。






 昨夜の難産失位は、畜主が触診した時点で「自分の手に負えない」と判断、すぐさま急患用携帯に往診依頼をいれました。胎児は頭位でしたが仰向けの状態でした。両前肢を牽引してもこれでは頭部が産道に入ってくるのはまず無理でしょう。用手にて胎児を回転させ産道に正常に誘導した後、母体が怒責し産道が少し開くのを待ち、畜主と二人で一気に牽引、娩出させました。幸運にも胎児は無事娩出されました。母牛にカルシウム剤、ブドウ糖を点滴してから日付が変わったばかりの農場を後にしました。






 この子は、メスなので順調に行けば、約2年後には最初の分娩を向かえ、農場に多くのの利益をもたらす存在となるでしょう。






帝王切開



 定期繁殖検診が終わり、夕刻の往診に向かう車中で急患携帯がはいった。

「難産だからすぐきてくれ」とのこと。「胎児の頭部が落ちていたので治してみたのだが・・・」と畜主。胎児が仰向けの状態だったので早速整復を試みる。下顎を確保し、頭部を産道に引っ張り込むのだがなかなかしっくり乗ってこない。なんか変だなと思いながらも既にロープがかけられた脚を引っ張ってみてもびくともしない。「引っ張ってみましたか?」と私、「うん、でもぜんぜんこないから先生に電話した。最初から呼べばいがったじゃ・・・」と畜主。既に胎児は死亡している模様だが、子宮内羊水がほとんどなく、母体の衰弱も色濃い(私の疲労も・・・)。帝王切開を判断するまでに、余計な時間を要してしまったか・・・。

 開けてみて判ったのだが、産科ロープがかかっていたのはどうも後肢であった可能性が高い。取り出してみると思ったほど胎児は大きくなかった。頭と後ろ足を同時に引っ張り娩出できるはずが無い。母体の回復に全力を注ぎたい。

第1花国の人気沸騰!


 今月13日(金曜日)は、青森県家畜市場の開催日でした。
家畜用飼料の値上がりなどの先行き不安定要因で、畜産業界はいまひとつ元気がありません。

そんな中、全国各地からの購買者が青森に参集し、七戸町の青森県家畜市場は活況を呈しておりました。特に第1花国の人気はすさまじく、100万円を超えるメス子牛が十数頭あった模様です。

第1花国ー安平ー隆桜の受精卵を受胎させればいいのです。うん うん 納得!

リフレッシュ


 今日は、日々の仕事から解放され久しぶりに家族4人で出かけてきました。
場所は、八戸市のこどもの国公園です。風もなく空は限りなく青く、穏やかな一日でした。息子とキャッチボールやサッカーをし、芝生の上にシートを広げ寝転びまどろみました。明日からはまた日常の診療に精を出します。

趾間部に発生する皮膚炎





 趾皮膚炎は、痛みが非常に強く、患跂を浮かせて負重させないようにしたり、頻繁に左右の蹄を交互に踏みなおしたりするのが特徴的です。痛みの少ない負重部位で立つためか、あるいは、負重そのものが少なくなるためか、蹄低は、短期間で変形するケースが多いと感じます。処置の方法は、皮膚病変部への、抗生剤あるいはヨード剤の塗布、抗生剤の全身投与が選択肢としてあげられますが、蹄の変形が顕著であれば、蹄形を正常に削切してあげることが重要だと考えます。

蹄病の処置


 蹄の疾患が増加傾向にあるという話を雑誌で目にしますが、実際、私もそう感じます。弊社のクライアントの酪農家は、スタンチョン、タイストール形式が多いのですが、フリーストール、フリーバーン形式は、特に蹄病罹患牛の多発が、深刻な問題となっています。発症要因としては、栄養との関係、削蹄の技術、牛床の形態など様々で、まだ解明しきれていない部分が多いのが現状だと思います。
  しかし、蹄が痛い牛のストレスは、非常に大きいことは、容易に想像が付きますし、生産性の低下や、2次的な疾病の発症を招くことも充分あると思います。特に、生理的にストレスのかかる分娩前後のステージであれば、非常に深刻です。蹄病を予防するとともに、罹患した個体を、早期に発見、処置することが必要であり、我々臨床獣医師に求められる技術だと思います。

岩手県受精卵移植懇話会

1月25日、岩手県農業研究センター畜産研究所において、第2回岩手県受精卵移植懇話会が開催され「民間家畜診療施設におけるETへの取り組みと今後の課題」というテーマで講演させていただきました。思いのほか多くの方々が出席され、活発な質疑を頂きました。さすがに畜産県だけあって、技術者の層の厚さ、意識の高さが感じられました。これまでのデータをまとめたり、スライドを準備する作業は、正直辛いのですが、これまでを振り返り、論旨を整理することや、何よりも多くの方々との意見、情報交換ができたことは、大きな収穫となりました。お招きいただきました懇話会の会員の皆様、そしてご準備いただいた畜産研究所のスタッフの皆様、ありがとうございました。